Project PLATEAUユースケース「熱流体解析に関する大規模シミュレーション」
「熱流体解析に関する大規模シミュレーション」とは、国土交通省「Project PLATEAU」の2023年度、2024年度ユースケースとして、株式会社構造計画研究所(東京科学大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 稲垣厚至助教 / 株式会社ウエスコ)にて開発した、3D都市モデルの建物形状や属性情報を活用した熱流体・風況のシミュレーション、およびその結果の可視化Webシステムです。
背景と課題
都市の高密度化と気候変動の進行により、都市における環境課題はますます複雑化しています。とりわけ、夏季のヒートアイランド現象は都市の気温上昇を招き、屋外作業者や高齢者などにとって深刻な熱中症リスクとなっています。アスファルトやコンクリートに囲まれた市街地では、夜間になっても気温が下がらず、冷房使用の増加による電力ピークも重なって社会的課題へとつながります。
一方で、都市再開発や高層ビルの建設は、都市部の風の流れに大きな影響を及ぼします。これにより歩行者の転倒事故や、特定エリアにおける風だまり・風の抜けの悪化などが問題化しています。
これらの課題に対処するには、計画段階での熱・風のシミュレーションによる“事前の見える化”が重要です。
従来、都市の温熱環境を解析するには、高性能な計算機と専用ソフトを用いた社内システムが必要であり、多くの地方公共団体にとっては、データ準備から解析実施、結果の整理に至るまで、シミュレータを保有するIT企業等への外注が前提でした。
しかし近年、PLATEAUによる3D都市モデルの整備が進み、都市全体を対象とした解析が現実的なものとなったことで、より身近なツールとして業務に活用したいという自治体のニーズが高まっています。

3D都市モデルを活用した熱流体シミュレーション(イメージ)
解決策:クラウドで誰でも扱える解析ツールを目指して
本システムは、国土交通省「PLATEAU」ユースケース開発事業の一環として開発されました。私たちは、PLATEAUの3D都市モデルを活用し、Webブラウザで操作できる熱流体解析ツールを構築しました。
本システムはクラウド環境で動作するため、専用ソフトや高性能PCは不要です。また、GUIによる直感的な操作を可能とすることにより、自治体職員や設計者が自ら解析を実施できる環境を実現しています。
機能・特長
主な機能と特徴
本システムは、熱流体解析を従来よりも圧倒的に手軽に、かつ視覚的に実行できるように設計されています。都市における風・暑さの挙動を迅速に評価し、計画策定や対策立案の意思決定に貢献します。

- PLATEAUの3D都市モデルを読込
- クラウド上で熱流体シミュレーションを実行(風向・温度・暑さ指数(WBGT)を出力)
- Webブラウザ上で解析結果を視覚的に表示・比較
- ユーザーはGUIで条件変更・再シミュレーション、出力画像の保存が可能
5つの特徴
特に以下のような特徴があります。
3D都市モデルを活用した解析環境
国土交通省が整備するPLATEAUの3D都市モデルデータをそのまま利用可能です。建物の高さ・形状・配置といった都市構造を忠実に反映した解析が行えます。3D都市モデル整備済みの都市でしたら、面倒なデータ整備は不要です。
風向・風速の可視化
解析対象エリアにおける風の流れを矢印ベクトルで直感的に表示します。高層ビルによるビル風や、通風の遮断などを視覚的に確認できます。
気温・暑さ指数分布マップ
地表面材質(アスファルト/緑地など)や日射条件を考慮した気温・暑さ指数(WBGT)の分布を可視化します。夏場の熱中症対策や公共施設の配置検討など、住民の健康に直結する情報として活用できます。
建物の追加・削除・条件変更
再開発により建物の配置が変わる際、その前後での気象影響を比較可能です。建物の有無・高さ・配置をGUIで簡単に編集でき、都市再開発による気候への影響を誰でも検討できます。
複数条件の比較解析
シナリオを複数設定し、それぞれのシミュレーション結果を並列表示します。緑化施策や建物高変更の効果などを分かりやすく提示できるため、合意形成を目的とした資料に活用いただけます。

再開発前後や複数条件の比較解析(イメージ)
解析ソルバー
解析エンジンには、オープンソースのCFD(Computational Fluid Dynamics)ソフトウェア「OpenFOAM」を採用しています。
Webアプリ機能
- 認証機能:ユーザーのログイン管理とデータ共有
- 表示機能:3D都市モデルの登録と解析結果の可視化
- 解析機能:外力環境条件の設定とシミュレーション実行
- 公開機能:解析結果をURL形式で第三者に公開可能
活用事例と導入シーン
本システムは、国土交通省「PLATEAU」ユースケース開発事業において、実際の自治体との連携のもと実証を行いました。対象地域のデータを活用し、都市開発や暑さ対策に対するシミュレーションの有効性を検証しています。
- 横須賀市様(2023年度・2024年度)
- さいたま市様(2024年度)
想定される導入シーン
本システムは、自治体の職員様・都市計画担当者様・建設コンサルタント様など、都市環境の改善やまちづくりに携わる幅広いユーザー層を対象としています。
以下のような具体的な導入シーンでの活用が想定されます。
都市再開発の初期検討
再開発や再整備を進めるにあたり、事業着手前の早い段階で、対象エリアの通風や暑さ環境を把握するために活用。ビル風やヒートアイランドの影響を事前に把握し、計画案の検討材料として用いることができます。
ヒートアイランド対策の検証
緑地の追加、舗装材の変更、建物配置変更などにより、気温やWBGT(暑さ指数)がどう変化するかを可視化。暑熱リスクを軽減する都市環境づくりに向けた対策の立案や、効果検証に活用いただけます。
PLATEAU補助制度申請時のユースケース
国交省によるPLATEAU補助制度(「都市空間情報デジタル基盤構築支援事業」等)に自治体様が申請される際、ヒートアイランド対策や再開発に伴う環境影響の事前検討を目的として、本ツールを活用したユースケース案を国交省に提案いただくことができます。
今後の展望
緑化施策の効果検証におけるシミュレーション活用を加速するためには、インプットデータとしての植生モデルへの対応や、解析条件における植生の考慮など、都市の緑地や植栽の効果をより精緻に再現できる仕組みが求められています。
こうしたニーズに対応できるよう技術改良を継続的に実施し、ヒートアイランド対策や緑化推進施策、熱中症対策、学校・文教施設計画といった多様な分野での政策立案に、本システムをより汎用的に活用していただけるよう改良を進めてまいります。
関連WEBサイト
資料ダウンロード
さまざまな解析技術をまとめた資料をダウンロードいただけます。
解析技術の概要から、具体的な事例まで詳しくご紹介しています。ぜひ一度ご覧ください。